論文の残滓

特許実務に関するあれこれ。

CRISPR-CAS9システムの米国特許の成立

忙しい、と経過監視を怠っていると、色々と進むものです。

業務ではなく、あくまで趣味の一環です。

 

nannosono.hatenablog.com

sgRNAを用いるCRISPR-CAS9システムの基本特許が日本で成立したとの話を前回投稿しましたが、3日後にUCBの米国特許が成立していました。

 

公報へのリンクが貼れないので、出願番号と、特許公報の番号を示します。

Application Number:14/685,502 

Patent Number:10,000,772

公報番号の桁が一つ増えてる?!

 

米国において、UCBの基本特許はInterference→CAFCとBroadと絶賛係争中のため、特許が成立していませんでした。

Interferenceの開始後、UCBは、(おそらく)ライセンス関係のため、そして、特許ポートフォリオの充実を目的として多数の分割出願を始めていましたが、やっとこさ物になったようです。

さて、本件特許のメインクレームですが、下記の通りです。

 

  1. A method of modifying a target DNA molecule, the method comprising:

            contacting a target DNA molecule having a target sequence with a complex comprising:

            (a) a Cas9 protein; and

            (b) a DNA-targeting RNA comprising:

              (i) a targeter-RNA that hybridizes with the target sequence, and

              (ii) an activator-RNA that hybridizes with the targeter-RNA to form a double-stranded RNA (dsRNA) duplex of a protein-binding segment,

            wherein the activator-RNA hybridizes with the targeter-RNA to form a total of 10 to 15 base pairs,

            wherein said contacting takes place outside of a bacterial cell and outside of an archaeal cell, thereby resulting in modification of the target DNA molecule.

 

大まかには、CAS9タンパク質とsgRNAとをターゲットDNAに接触させることでターゲットDNAを修飾する方法です。

本件の特徴的な構成はsgRNAの構成であり、具体的には、targeter-RNA (crRNA)とactivator RNA (tracrRNA)とがハイブリダイズする長さを規定している点です。

クレームでは10-15塩基長となっていますので、一般的にはこの範囲に含まれるのでしょう。

逆に、この範囲を外しても効果的にゲノム編集ができるのであれば、簡単に回避できることになります。

 

本件特許は物クレームではなく、方法クレームのため、試薬、キット、医薬品等の物を販売する場合には直接侵害にはなりません。

ただし、間接侵害(寄与侵害)が問題になるため、実質的にはこれらの物の販売行為には制限がかかることになります。

米国で事業を考えている方はご注意ください。

 

CRISPR-CAS9の基本特許の取得を争っている、二大巨頭の特許が米国で成立したので、そろそろ、侵害関係の係争が始まるかな?

CRISPR-CAS9システムの基本特許の成立(日本)

Broadの特許の成立後、Feng Zhangが来日して大合議体かいなというような審査官面接が行われたりしていましたが、審査が遅遅として進まない日本…。

しかし、ついにCRISPR-CAS9基本特許が成立しました。

特許公報確認!よかった

 

今回は、基本特許争いで、一番の有力候補であるUC Berkeley(UCB)の特許です。

特許第6343605号

特許・実用新案照会(固定アドレス)(結果一覧)|J-PlatPat

 

内容の詳細は後日コメントしますが、sgRNAを用いるCRISPR-CAS9システムについての大半をカバー特許となります。

大まかなクレームの種類は以下のとおり。

 

・標的DNAの修飾方法

・組成物

・単一分子DNA標的化RNA、または前記単一分子DNA標的化RNAをコードするDNAポリヌクレオチド(sgRNAまたはsgRNAをコードするDNA)

核酸ベクター系)

・キット

・遺伝子改変された真核生物細胞

 

特筆すべきは、sgRNA自体をカバーする特許が成立したことでしょう。

sgRNA自体をカバーする特許があれば、例えば、下記のようなsgRNAを利用する試薬・キット等は基本的にこの特許にカバーできます。

CRISPR/Cas9 プラスミド システム|クロンテック製品情報|タカラバイオ株式会社

 

ということで、この分野で事業を実施する上でかなり重要な特許が成立しました。

基礎出願の包袋閲覧(特許)

気がつけば年末です。

師走とはいいますが、12月週3-4ペースで出張しており、中々きついもの。

仕事は増える一方、処理する時間はない…

年度末までこんなものでしょう。

 

本年最後の投稿は、基礎出願の包袋の閲覧について。

 

係争事件になると基礎出願の包袋の確認が必要となることがあります。

ただし、未公開出願は、出願人以外が閲覧することは原則できません(特許法第186条第1号)。

この規定には例外があり、基礎出願の包袋は、基礎出願に対する優先権を主張する出願が公開された場合、閲覧請求が可能となります(方式審査便覧58.20)。

 

基礎出願および優先権主張出願がともに国内出願である場合は、便覧どおりの取扱いとなりますが、優先権主張出願が国際出願(日本語でのPCT出願)である場合、国際公開後に基礎出願の包袋を閲覧できるのでしょうか?

おそらく可能と推定されますが、600円払ってだめだともったいないので、念のため特許庁に確認してみました。

なお、基礎出願の明細書等は、WIPOのデータベースから該当する国際出願の優先権証明書等により確認できます。

 

日本語でのPCT出願の場合、国際公開後であれば、通常の閲覧請求により基礎出願の包袋は閲覧できるとのことでした。

この場合、通常どおり、基礎出願の出願番号を記載して閲覧請求をすれば、特許庁側で優先権主張出願の公開の有無を自動的に判別するため、優先権主張出願の出願番号または国際公開番号を【その他】欄等で記載する必要は無いとのことです。

 

ということで、日本語の出願同士で有る場合、基礎出願(国内)→優先権主張出願(PCT)であっても、優先権主張出願が公開されれば、基礎出願は閲覧できるようです。

無料のファイル記録の閲覧期間(特許・商標)

たまに忘れるので備忘録。

 

ファイル記録記録を閲覧しようとすると、通常は、特許庁の手数料が発生する(オンラインで600円)。

ただし、特許と商標との場合、以下の期間に限り、ファイル記録を無料で閲覧できる。

 

特許:特許公報の発行後1年間

商標:登録公報の発行後2ヶ月

 

業務と関係なく気になる特許が登録され、また、音商標が登録されたので、やってみようとは思いつつも、閲覧者は記録に残り確認できるので、クライアントの痛くもない腹を探られるのも面倒…。

 

さて、どうするか…。

CRISPR-Cas9関連の日本国特許の成立

1ヶ月強前に書いたBroad研究所のCRISPR-Cas9関連特許出願について、進展がありました。

 

 

紹介した特許出願(特願2016-025710)について、9月27日付けで特許公報(特許番号:特許第6203879号)が発行されました、

設定登録は9月8日とのことですので、予想通り9月に設定登録されていました。
なお、登録された特許の内容は、下記URLから確認できます。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/PU/JPB_6203879/650110CAC756A3370239595BA8DDA4AE

 

Broadは、網の目状に特許を取る戦略を取っているので、今後続々と特許が成立しそうです。

今の所、次の候補は特願2016-131404あたりでしょうか。

Berkeleyの出願(特願2015-514015)も、そろそろ次のOffice Actionが通知されそうな時期のため、こちらも今後が気になるところです。

オーストラリアにおける特許権の延長登録

日本においては第二医薬用途のクレームは、例えば以下のようになる。


【請求項1】(JP第二医薬用途)

化合物Xを含む、疾患A用医薬組成物。


国によっては第二医薬用途の記載形式として、下記のswiss type claimで記載する。

ただし、swiss type claimは、使用クレームのため、方法クレームであるという問題がある。


【請求項1】(EP等の第二医薬用途)

疾患Aを治療するための医薬の製造のための化合物Xの使用。


オーストラリアも第二医薬用途のクレームとして、swiss type claimが使用できたところ、このクレーム形式で、特許権の延長登録が認められるかが問題となった。

争点は、方法クレームであるswiss type claimについて、延長登録が認められるかどうか。

AUの裁判所は、swiss type claimは方法クレームであり、医薬品が含む物質を権利範囲に含まないため、延長登録は認められないと判断した。


http://www.judgments.fedcourt.gov.au/judgments/Judgments/fca/full/2017/2017fcafc0129


swiss type claimは使えない子になりつつあり、基本的に避けないといけない時代に。

プラクティスの変化があるかもしれないので、明細書に書いといて、クレームアップできるようにしておけば十分ですな。

CRISPR-Cas9特許の日米欧比較

日本でBroad研究所の特許が成立しそうなので、米欧でのファミリー特許と比較してみた。

 

各国の特許のメインクレームは末尾のとおり。

大きな違いは、日本国特許は、CRISPR-Casベクター系に関する発明であるのに対し、米国および欧州特許は、非天然または人工の組成物に関する発明である点。

その他、欧州特許は、Cas9をコードするポリヌクレオチドは不要(chiRNAのみも可)である点、

米国特許は、①ターゲットにハイブリダイズするガイド配列の長さの限定なし、②tracrRNA配列の長さの限定なし、③Cas9をコードするポリヌクレオチドが不要(chiRNAのみも可)および④ガイド鎖、tracr配列、またはtracr mate配列に修飾要(101条対策?)である点で、日本国特許と異なる。

いずれにせよ、成立した日本国特許は、米国および欧州特許と比較するとかなり狭いクレームとなっている。

なお、日本国特許の親出願は、米国および欧州特許と同様の広いクレームで審査に継続しているので、こちらの動向が今後は気になる。

 

日本国特許(予定、特願2016-025710)

【請求項1】

 クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、

I. CRISPR-Cas系キメラRNA(chiRNA)ポリヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、

 前記ポリヌクレオチド配列が、

(a)真核細胞中の標的配列にハイブリダイズする、10~30ヌクレオチドの長さを有するガイド配列、

(b)トランス活性化CRISPR RNA(tracr)メイト配列、及び

(c)tracrRNA配列

を含み、

 (a)、(b)及び(c)が、5’から3’配向で配置されており、

 前記tracrRNA配列が、50以上のヌクレオチドの長さを有する、

第1の調節エレメントと、

II. 真核細胞の核中の検出可能な量のII型Cas9タンパク質の蓄積をドライブするために十分な強度の、1つ以上の核局在化配列を含む前記Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントとを含む1つ以上のベクターを含み;

 成分I及びIIは、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し;

 前記ヌクレオチド配列が転写されると:

  前記chiRNAは、前記II型Cas9タンパク質へと集合し、前記II型Cas9タンパク質と複合体を形成し、

  前記tracrメイト配列は、前記tracrRNA配列にハイブリダイズし、

  前記ガイド配列は、前記真核細胞中の前記標的配列への配列特異的結合を指向し、

  それによって、(1)前記真核細胞中の前記標的配列にハイブリダイズされる前記ガイド配列、及び(2)前記tracrRNA配列にハイブリダイズされる前記tracrメイト配列と複合体形成している前記II型Cas9タンパク質を含むCRISPR複合体が形成される、

CRISPR-Casベクター系。

 

米国特許(US8906616)

  1. An engineered, non-naturally occurring composition comprising a Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats (CRISPR)-CRISPR associated (Cas) (CRISPR-Cas) system having a guide RNA polynucleotide sequence, wherein the polynucleotide sequence comprises

              (a) a guide sequence capable of hybridizing to a target sequence in a eukaryotic cell,

              (b) a tracr mate sequence, and

              (c) a tracr sequence

              wherein (a), (b) and (c) are arranged in a 5′ to 3′ orientation,

              wherein when transcribed, the tracr mate sequence hybridizes to the tracr sequence  

           and the guide sequence directs sequence-specific binding of a CRISPR complex to the

           target sequence,

              wherein the to CRISPR complex comprises a Type II Cas9 protein complexed with (1)

           the guide sequence that is hybridized to the target sequence, and (2) the tracr mate

      sequence that is hybridized to the tracr sequence,

              wherein in the polynucleotide sequence, one or more of the guide, tracr and tracr

     mate sequences are modified.

 

欧州特許

  1. A non-naturally occurring or engineered composition comprising:

a Clustered Regularly Interspersed Short Palindromic Repeats (CRISPR)-CRISPR associated (Cas) (CRISPR-Cas) system chimeric RNA (chiRNA) polynucleotide sequence, wherein the polynucleotide sequence comprises

              (a) a guide sequence of between 10-30 nucleotides in length, capable of hybridizing to

    a target sequence in a eukaryotic cell,

              (b) a tracr mate sequence, and

              (c) a tracrRNA sequence

              wherein (a), (b) and (c) are arranged in a 5' to 3' orientation,

              wherein when transcribed, the tracr mate sequence hybridizes to the tracrRNA

              sequence and the guide sequence directs sequence-specific binding of a CRISPR

              complex to the target sequence,

              wherein the CRISPR complex comprises a Type II Cas9 protein complexed with (1)

              the guide sequence that is hybridized to the target sequence, and (2) the tracr mate

             sequence that is hybridized to the tracrRNA sequence,

              wherein the tracrRNA sequence is 50 or more nucleotides in length.