論文の残滓

特許実務に関するあれこれ。

高速旋回式バレル研磨法

試験勉強をしていた気になったのでいきさつと判例をざざっと斜め読みしてみた。

 

1.概略

X:特許権者

Y:無効審判請求人

 

(1)YがXの保有する特許権(特許759004号)に対し、無効審判を請求した。無効理由は、29条2項、29条の2および36条5項。

(2)第1審決は、刊行物1~3に基づき、当業者が容易に想到しうるため、29条2項の規定に該当するとして、請求認容審決。

(3)X控訴。

(4)第1判決では、無効審判における事実認定に間違いがあり、刊行物1~3に基づき、容易に想到できるとはいえないため、29条2項の規定に該当するとはいえないとして、審決取り消し。

(5)第2審決は、前記判決を受け、29条2項の規定にも該当しないとして、請求棄却審決。

(6)Y控訴。

(7)Yは第2訴訟において、Xの特許は格別な効果を奏するものではないことを示す証明書を提出した。

(8)第2判決では、Yの証明書を採用し、刊行物1~3に基づき容易に想到しえ、29条2項の規定に該当するとして審決取り消し。

(9)X上告。

 

 

2.争点

 第1判決の「事実認定の誤りによる進歩性判断の過誤」という判決の拘束力がどこまで及ぶのかが問題となった。この点に関する主な考え方は、下記の2つである。

 

(1)第1判決は、刊行物1~3の事実認定の誤りについて指摘したため、当該事実認定のみに拘束力が及ぶ(当時の通説)。

(2)第1判決は、事実認定の誤りに基づく進歩性の判断の過誤を指摘したため、刊行物1~3に基づく進歩性の判断にも拘束力が及ぶ。

 

 

3.判決

 「特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により、審決の認定判断を誤りであるとしてこれが取り消されて確定した場合には、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないのであり、したがって、再度の審決取消訴訟において、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである(同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明する ことができた)として、これを裏付けるための新たな立証をし、更には裁判所がこれを採用して、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである。」

 

 ということで、高裁の判断は(1)であったのに対し、最高裁の判断は(2)であった。

 

                                   以 上

 

 最近弁理士資格を取られた方が、第1判決後、Yが上告し、新証拠を提出していれば結果が違っていたんじゃないかとおっしゃっておられた。しかし、最高裁では、新証拠の検証は行わない…。弁理士のレベルが落ちたってこういうことなんでしょうね。