論文の残滓

特許実務に関するあれこれ。

訂正時の発明のカテゴリー変更 その2@国内審判

前回の記事の続き。

 

訂正時の発明のカテゴリー変更@国内審判 - 論文の残滓

 

特許を訂正する場合、訂正の目的は一定の目的に限定されています(特126条1項但書各号)。

昨年の最高裁判決(最高裁第二小法廷判決平成27年 6月5日(平成24年(受)第1204号))では、PBPクレームの明確性について下記のように判示しており、不可能・非実際的要件を満たさない場合、PBPクレームは不明確と判断されます。

 

「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合する といえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」

 

このため、原則的に、PBPクレームは不明瞭な記載を有することとなり、PBPクレームから製造方法クレームへの訂正は、特126条1項但書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的することとなります。

 

また、PBPクレームはその物の製造方法で物を特定しているため、その製造方法自体は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項であり(記載されていないのであれば、そもそも記載要件の問題がある)、同条5項に規定されている要件を満たすこととなります。

 

そうすると、PBPクレームから製造方法クレームへの発明のカテゴリー変更を伴った訂正を行うに当たって、一番の問題となるのは、

「特許の請求の範囲の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない(同条第6項)」

との要件を満たすかということなります。

 

審決(訂正2016-390005)では、この点について、

(1)訂正により発明の技術的意義が実質的に拡張又は変更されたか否か

(2)訂正による第三者の不測の不利益の有無

の2つの観点から判断しています。

 

具体的に、審決では、前記(1)について、

『 特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものである。

 また、特許法第36条第4項第1号の規定により委任された特許法施行規則の第24条の2には、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されているから、訂正前請求項1発明と訂正後請求項1発明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が、実質的に変更されたものか否かにより、訂正後請求項1発明の技術的意義が、訂正前請求項1発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更されたものであるか否かについて検討する。』

と発明の課題および解決手段の実質的な変更が生じたかを、(1)の指標にするとの前置きをした上で、訂正前のPBPクレーム及び訂正後の製造方法クレームの課題並びに解決手段に実質的な変更がないことに基づき、技術的意義に変更はないと判断しています。

 

また、審決では、(2)ついて、

『 特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されたもの(特許法第36条第5項)である。

 また、特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。

 以上を踏まえ、訂正前請求項1発明と訂正後請求項1発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後請求項1発明の「実施」に該当する行為が、訂正前請求項1発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。』

とカテゴリーの変更に伴う発明の実施の範囲の変更により、従来含まれていなかった発明の実施を含むか否かを、(2)の指標にするとの前置きをした上で、訂正後の製造方法クレームの実施行為は、全て訂正前のPBPクレームの実施行為に含まれるため、発明の実施について、拡張又は変更するものではないと判断しています。

 

以下、簡単なコメント。

PBPクレームから製造方法クレームへの変更は、審判便覧38−03の実質的な拡張等の例示には引っかからず、また、権利範囲の拡張等を伴わないため、特許庁がどのように判断するかは注目していました。

今回特許庁が示した拡張又は変更の判断の基準の内、前記(1)は、発明の同一性を評価基準とし、その中でも作用効果の同一性を基準とする判例(昭53(行ケ)131号、平18(行ケ)10125号)と類似した判断となります。

他方、前記(2)は、特許庁が新たに示した判断基準であり、今後、裁判等で争われた際に裁判所がどのような判断するかは気になるところです。