論文の残滓

特許実務に関するあれこれ。

免疫チェックポイント阻害薬の特許の状況(余談)

 昨日の投稿の続き。

 

nannosono.hatenablog.com

抗PD-L1抗体の作用機序に関して、テセントリクのみはっていたので、残り二つについても時間のある間に調べてみました。

 

バベンチオの作用機序については、HPによると以下のような記載があります。

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「バベンチオ®は、腫瘍細胞上のPD-L1とT細胞上のPD-1の結合を阻害することで、活性型T細胞における抑制的調節を遮断します。その結果、腫瘍抗原特異的に働くT細胞が増殖、活性化することにより、腫瘍の増殖を抑制すると考えられています。バベンチオ®は主に、抗腫瘍CD8+細胞傷害性T細胞による免疫応答を増強します。」

 

また、イミフィンジの作用機序については、HPによると以下のような記載があります。

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「イミフィンジ®は、切除不能な局所進行(ステージIII)非小細胞肺がんに対する治療薬として承認された、本邦初の抗PD-L1ヒトモノクローナル抗体(抗PD-L1抗体)です。PD-L1に結合し、PD-L1とその受容体であるPD-1との結合を阻害すること等により、抗腫瘍免疫応答を増強し、腫瘍増殖を抑制すると考えられています。特に、腫瘍量を減少させ、がん抗原特異的なT細胞の細胞傷害活性を誘導させる放射線治療の後にイミフィンジ®を用いることで、より効率的に抗腫瘍免疫応答を回復し、がんの排除を促すことが期待できます。」

 

このため、HP上の記載に基づけば、バベンチオについては「PD-1の免疫抑制シグナルを抑制する」ことを示唆する記載はありますが、バベンチオおよびイミフィンジについても、テセントリクと同様に、第3および第5世代のクレームに記載されているように、抗PD-L1抗体が「PD-1の免疫抑制シグナルを抑制する」かは不明です。

ということで、抗PD-L1抗体に関しては、「PD-1の免疫抑制シグナルを抑制する」という文言の充足性が争いとなっていそうです。

 

さらなる余談。

小野薬はもめそうな文言をなぜ入れたのか?

出願経過での対応で導入せざる得なかった可能性もあるため、第3世代の出願の包袋を確認してみました。

出願当初は下記の通りであり、別の性質でがん治療薬を特定するクレームとなっています。

 

【請求項1】

抗PD-L1抗体を有効成分として含み、インビボにおいて癌細胞の増殖を抑制する作 用を有する癌治療剤。

 

このクレームであれば、各社のがん治療薬は、結果的にインビボにおいてがん細胞の増殖を結果的に抑制しているため、充足しているようにも読めます。

が、審査請求後、最初の拒絶理由通知前に、登録時のクレームと同一文言に補正しており、抗体の性質を特定する文言は、出願経過での対応とは関係なく導入されているようです。

ということで、なんらかの意図をもって補正をしているようで。

 

他の可能性を考慮しての対応ということになるが、何なのか…。

サポート要件違反等の記載要件違反を指摘されることを避けるため…?

出願時のクレームの場合、「本願明細書および技術常識に基づいても、あらゆる抗PD-L1抗体がin vivoでがん細胞の増殖を抑制できるとはいえない」、「PD-1とPD-L1との相互作用を阻害できない抗PD-L1抗体について、本願明細書および技術常識に基づいても、抗PD-L1抗体がin vivoでがん細胞の増殖を抑制できるとはいえない」としてサポート要件違反を指摘される可能性を考慮した可能性はあります。

ただ、補正等により対応可能なため、理由としては弱い気も。

真相は小野薬の方しか分からなさそうです。

 

上記2点に関しては、クレームの文言をうまく調整してやることにより、両者とも回避可能です。

一例として、本発明では、がん治療薬はPD-1 -PD-L1の相互作用を阻害することにより、抗がん作用を示すため、下記のようなクレームの方がベターだったのではないかと考えます。

まあ、結果をみての作文なので、なんとでも書けるのですが…

 

PD-1と、PD-L1との相互作用を阻害する抗PD-L1抗体を含むことを特徴とする、がん治療薬。