論文の残滓

特許実務に関するあれこれ。

Broadの日本におけるゲノム編集特許の状況

気がつくとあっという間に数ヶ月がたつものです。

 

備忘録がてらに1投稿。

 

Broadの下記2件の出願について、本年1月29日付けで拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟知財高裁に提起されました。

いずれも、JP出願においては比較的広いクレームです。EPではもっと広いクレームがありますが。

 
特願2016-117740平31行ケ10010

【請求項1】

 エンジニアリングされた、天然に存在しないクラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、

 a)ガイド配列、tracrRNA及びtracrメイト配列を含むCRISPR-Cas系ポリ-ヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、前記ガイド配列が、真核細胞中のポリヌクレオチド遺伝子座中の1つ以上の標的配列にハイブリダイズする、第1の調節エレメント、

 b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント、

 c)組換えテンプレート

を含む1つ以上のベクターを含み、

 成分(a)、(b)及び(c)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し、前記系が、前記Cas9タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列とともに発現される1つ以上の核局在化シグナル(複数の場合も有り)(NLS(複数の場合も有り))をさらに含み、

 それによって、前記ガイド配列が、真核細胞中の前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座を標的とし、前記Cas9タンパク質が、前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座を開裂し、それによって、前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座の配列が、改変される、

CRISPR-Casベクター系。

 

特願2016-128599平31行ケ10011

【請求項1】

 エンジニアリングされた、天然に存在しないクラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、

 a)真核細胞中のポリヌクレオチド遺伝子座中の標的配列にハイブリダイズする1つ以上のCRISPR-Cas系ガイドRNAをコードする1つ以上のヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、前記ガイドRNAが、ガイド配列、tracr配列及びtracrメイト配列を含む、第1の調節エレメント、

 b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントであって、前記タンパク質が、核局在化シグナル(NLS)を含む、第2の調節エレメント

を含む1つ以上のベクターを含み;

 成分(a)及び(b)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し、

 前記tracr配列が、30以上のヌクレオチドの長さを有し、

 それによって、前記1つ以上のガイドRNAが、真核細胞中の前記ポリヌクレオチド遺伝子座を標的とし、前記Cas9タンパク質が、前記ポリヌクレオチド遺伝子座を開裂し、それによって、前記ポリヌクレオチド遺伝子座の配列が、改変され;

 前記Cas9タンパク質及び前記1つ以上のガイドRNAが、いっしょに天然に存在しない、

CRISPR-Casベクター系。

 

いずれの案件も拡大先願および進歩性欠如に基づき、拒絶審決されています。

知財高裁への出訴時に代理人を、医薬系では超有名な某事務所に変更したという風の噂を耳にしたので、米国の応答方針をそのまま日本に適用するという、米国代理人がやりがちな筋悪な対応からは方針が変わっているでしょう。

最近の知財高裁の判決の傾向からすると、進歩性より拡大先願が問題になりそう。

髙部所長がどういう判断をされるかが楽しみです。