論文の残滓

特許実務に関するあれこれ。

異議申立と無効審判との相違点

来年度から異議申立制度が復活します。

ということで、異議申立と無効審判との相違点を表にまとめてみました。

特許権者側に対して不利な制度のため、権利者側の代理人となる場合にどのように対応するか等については細かな対策を考えておく必要がありそうです。

 

 

表について不足、間違い等があったらご指摘ください。

 

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2014/11/11 表の修正

決定予告制度が運用では導入されるそうです。

それでも、特許権者側には相変わらず不利ですね。

韓国特許法改正

韓国代理人が遊びに来たので、韓国特許法改正について色々聞いてみた。

 

1.仮出願制度の開始

 クレームが無くても出願日が認定されるようなる。

 クレームは優先日から1年以内に出せば良い。

 英語での仮出願も可。ただし、出願日から1年2ヶ月以内に韓国語翻訳文の提出要。

 

2.PCT移行時の翻訳文の提出

 現在は、優先日から31ヶ月までに提出。

 優先日から32ヶ月まで延長される。

 

3.翻訳文主義への変更

 原文からの誤訳訂正が可能になる。

 

4.追納期間後の追納料金の減額

 6ヶ月後の追納期間後、3ヶ月間3倍の特許料を納付することで特許権が回復する。

 3ヶ月間の3倍の特許料が2倍の特許料へ減額。

 

5.その他

 法令改正以外の変更点や、今後の改正予定。

 

(1)プログラムのカテゴリー

 審査基準上、プログラムは物の発明として取り扱うようになる。

 裁判上は不明。

 

(2)FAの短縮

 現在FAまでの平均期間は13.5ヶ月であるが、これを11.7ヶ月まで短縮予定。

 これに伴いOAの発行が、今年より2割程度増える模様のこと。

 

(3)審査対応の方向性の変更

 現在は、特許要件を満たさない出願について拒絶する方向性で審査を行っていたが、今後は、補正の示唆を行う等、特許可能となるように補助する方向で審査を行う。

 具体的には、審査官または特許庁から下記の対応が行われる予定とのこと。

 

 (i)   拡大された優先審査制度の導入

    特許庁が選択した出願について、予め出願人に技術説明会を行ってもらう。

    技術説明会後に審査官はFAを行う。

    なお、技術説明会では、予め補正の方向性について審査官から示唆がある場合も。

 

 (ii)  補正の示唆

    補正の方向性を示唆するOAを発行するようにする。

 

 (iii) 補正書等提出後の補正の示唆

    審査官が補正書および意見書で特許可能と判断できず、且つ、補正可能期間である

    場合、再度補正の方向性について示唆がある場合も。

 

 (iv) 再審査請求後のOA

    再審査請求後、特許可能と判断できない場合、拒絶査定が再度だされるが、今後は

    一度OAを発行し、補正の機会を与えるように変更する。

 

(4)PPH-MOTAINAI施行

 韓国もPPH-MOTAINAI制度が利用可能になる。

 

(5)新規性喪失の例外

 新規性喪失の例外の適用を申請できる期間は、出願時およびPCT移行時の一定期間であるが、延長する方向で法改正される予定。

 

(6)特許査定後の分割出願

 特許査定後の分割出願が可能になるよう法改正される予定。

 

                                     以上

特許権の存続期間の延長

研修も無事終わったので、ブログを再開することにします。

書籍の執筆があるため、春先からしばらく投稿しなくなる可能性もありますが。

 

年に1事件の頻度で知財高裁の大合議体判断が示されますが、

今年は表題の特許権の存続期間の延長に関する審決取消訴訟が合議体の判断対象となるようです。

 

知財高裁 大合議事件

http://www.ip.courts.go.jp/hanrei/g_panel/index.html

 

製薬関係の特許権は、1つの特許権で独占でき、マーケットが非常に大きものです。

このため、最大5年間特許権の存続期間が延長されるということは、企業業績にも大きな影響を与えるため、製薬関係の方はかなり注目されておられでしょう。

 

5月に判決が出るようですので、それまでに制度趣旨と審決内容とをネタに書いてみようかと思います。

 

高速旋回式バレル研磨法

試験勉強をしていた気になったのでいきさつと判例をざざっと斜め読みしてみた。

 

1.概略

X:特許権者

Y:無効審判請求人

 

(1)YがXの保有する特許権(特許759004号)に対し、無効審判を請求した。無効理由は、29条2項、29条の2および36条5項。

(2)第1審決は、刊行物1~3に基づき、当業者が容易に想到しうるため、29条2項の規定に該当するとして、請求認容審決。

(3)X控訴。

(4)第1判決では、無効審判における事実認定に間違いがあり、刊行物1~3に基づき、容易に想到できるとはいえないため、29条2項の規定に該当するとはいえないとして、審決取り消し。

(5)第2審決は、前記判決を受け、29条2項の規定にも該当しないとして、請求棄却審決。

(6)Y控訴。

(7)Yは第2訴訟において、Xの特許は格別な効果を奏するものではないことを示す証明書を提出した。

(8)第2判決では、Yの証明書を採用し、刊行物1~3に基づき容易に想到しえ、29条2項の規定に該当するとして審決取り消し。

(9)X上告。

 

 

2.争点

 第1判決の「事実認定の誤りによる進歩性判断の過誤」という判決の拘束力がどこまで及ぶのかが問題となった。この点に関する主な考え方は、下記の2つである。

 

(1)第1判決は、刊行物1~3の事実認定の誤りについて指摘したため、当該事実認定のみに拘束力が及ぶ(当時の通説)。

(2)第1判決は、事実認定の誤りに基づく進歩性の判断の過誤を指摘したため、刊行物1~3に基づく進歩性の判断にも拘束力が及ぶ。

 

 

3.判決

 「特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により、審決の認定判断を誤りであるとしてこれが取り消されて確定した場合には、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないのであり、したがって、再度の審決取消訴訟において、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである(同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明する ことができた)として、これを裏付けるための新たな立証をし、更には裁判所がこれを採用して、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである。」

 

 ということで、高裁の判断は(1)であったのに対し、最高裁の判断は(2)であった。

 

                                   以 上

 

 最近弁理士資格を取られた方が、第1判決後、Yが上告し、新証拠を提出していれば結果が違っていたんじゃないかとおっしゃっておられた。しかし、最高裁では、新証拠の検証は行わない…。弁理士のレベルが落ちたってこういうことなんでしょうね。

Wiskott-Aldrich syndrome protein (WASP) and N-WASP are critical for peripheral B-cell development and function

Lisa S. Westerberg, Carin Dahlberg, Marisa Baptista, Christopher J. Moran, Cynthia Detre, Marton Keszei, Michelle A. Eston, Frederick W. Alt, Cox Terhorst, Luigi D. Notarangelo, and Scott B. Snapper

Blood 119, 3966-3974, 2012

 

WASPとN-SWAPは相補的に働いている部分もあるよと言う話。

 

WASPはアクチン骨格の形成に関与し、造血系細胞移動や接着に重要である

・B細胞においてWASPはMZP、MZ細胞への分化、S1Pへの誘走、活性化後のintegrinの免疫シナプスへのクラスター化に関与している。

・N-WASPはどの細胞にでも発現している。

WASP N-WASPのdouble knockout T細胞を用いた研究によりreduncancyがあることが示されている。

 

著者等はWASPKOとWASP N-WASP DKOを比較することで、より大きなdefectが出ることを期待してやったのであろうが、結果自体はN-WASPのB cell development、functionへの関与はかなり限定的であることが示されているような感じ。アクチンの制御には他の分子も関わっているので、活性化以後のステップにはそれらの分子の関与の方が重要なのでしょう。

データもphenotypeも物足りないけどBloodなんですなあ…。

Development and function of murine RORγt+ iNKT cells are under TGF-β signaling control

Colin Havenar-Daughton, Shamin Li, Kamel Benlagha, and Julien C. Marie

Blood 119, 3486-3494, 2012

 

RORγt+ iNKTの分化について。

 

・iNKTは感染初期にIL-4やIFN-γを多量に産生することがしられている。

・iNKTの一部にRORγt+のIL-17産生性iNKTが存在することが明らかとなっている。

・この細胞はthymusでCD1d依存的に分化する。

・iNKTとは異なりRORγt+ iNKTはリンパ節や皮膚に多く存在することが知られている。

 

著者等は分化に必要な因子を探し、TGF-β→SMAD-4シグナルがRORγt+ iNKTの分化、IL-17産生に重要であることを明らかにした。

 

Dataの一部に矛盾を抱えているように見えるが言及は無し。TGF-βがcomittementに効いているのか、はたまた維持だけに効いているのかがはっきりしない。

ADAM10 is essential for Notch2-dependent marginal zone B cell development and CD23 cleavage in vivo

David R. Gibb, Mohey El Shikh, Dae-Joong Kang, Warren J. Rowe, Rania El Sayed, Joanna Cichy, Hideo Yagita, John G. Tew, Peter J. Dempsey, Howard C. Crawford and Daniel H. Conrad

J.E.M. 207, 623-635, 2010

 

少しばかり古い論文。

学会で話を聞いたこともあるのに読んでなかったという。

ちなみに1st authorはイケメン。

 

・骨髄から出てきたimmature B cellは脾臓でT1→T2をへてB2 or MZBへ分化する。

・B2、MZBの分化に関わっているシグナルの一つがNotchでNotch2が担当していることは分かっていた。(ここらは本庶ラボから論文が出てる)

・ただし、Notch2をsheddingする酵素が分かっていなかった。

 

今回、著者等はembryotic leathalなADAM10の末梢B細胞分化での機能をconditional KOを作って調べました。筆者等の予想通り、ADAM10はNotch2のsheddingに関わっており、MZB細胞の分化に重要だよと言うのが丁寧に調べられていた。NCIDって分解早くて検出できないのを初めて知ったり。CD23もADAM10によりsheddingされてることや、CD21にsoluble formがあることを知ったりと情報の多い論文でした。