論文の残滓

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特許異議申立制度の簡易統計(その1)

多忙で放置していたら、あっという間に2ヶ月経過…。

特許業界的には、サントリーアサヒビールに実質完全敗訴したり、Ariosaの上告申立が却下されて、アメリカのバイオ特許業界が不毛地帯になりそうならないけどなど、なかなかネタの多い二ヶ月でした。

 

本日からしばらく引っ張るネタは、事務所のセミナーに併せて、新設された特許異議申立制度の簡易統計をとったたので、そのデータと簡単な考察。

統計の対象としたのは、審判番号2015-700001~700100の100件。

特許異議申立制度の開始後の100件です。

なお、データを取得したのは7月中頃のため、現状は変わっている可能性があります。

 

100件について、どのような状況にあるのかを、決定または未決定を分類し、さらに、決定の場合、維持決定または取消決定なのかとの観点で分析したグラフが下記の通り。

 

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特許異議の申立てのうち、約4割近くは現在審理中。

また、全件審理が終わっていないとはいえ、現状、審理が終了した案件のうち取消決定はたった2件…。

他方、維持決定は全体の約6割ということで、現状は圧倒的に権利者側に有利な模様。

制度設計上、権利者側は訂正の機会が2回もあるため、申立人と比較して、権利者側が有利なことは予想されうることですが、思った以上に有利…。

特に取消理由通知なしで、全体の1/3が維持決定されていると考えると、特許を完全につぶす方法として特許異議申立てを利用を考慮する際には、証拠の収集および異議理由について、かなりしっかりとした戦略を立てる必要がありそうです。

ただし、往々にして完全につぶす必要が無いのは言うまでも無い。

 

さらに、今後、取消決定が増えうるのかについて検討するため、審理中の案件において、取消理由通知の有無を確認すると、大半は取消理由通知が通知済み。

また、取消理由通知が通知されている案件のうち、15件は2度目の取消理由通知(決定の予告)が通知済み。

このため、取消決定が占める割合もそこそこは増えそうな感じです。

 

単純な比較はできませんが、従前の特許異議申立制度における取消決定の割合はおおよそ1/3なので、審理中の案件の多くにおいて取消決定となれば、従前の特許異議申立制度における取消決定の割合と同程度となりそうです。

 

以下、申立人側として利用する際のあれこれ。

特許異議申立制度では、特許権者側は、取消決定が出ても知財高裁への出訴可。

他方、申立人側は、維持決定が出ても知財高裁への出訴不可。

このため、例えば、進歩性欠如のボーダー付近で取消を争う等の微妙な案件の場合は、特許異議申立制度を利用すべきかがかなり微妙なところ。

というのも、取消決定を出した場合、権利者側に文句を言われるが知財高裁へGo!)、維持決定を出しても、申立人には文句を言われない(無効審判をご利用ください!)

そして、知財高裁で決定が取り消され、特許庁に返ってくると、合議体には、部門内ミーティングでなぜ決定が取消されたのかについて詳細な報告を行う報告会という名のお仕置きが待っている…。

そうすると、人間心理的には、微妙なラインの場合は、無難な方に落ち着く可能性が高い…つまり、維持決定へ。

審判官も人間!

 

また、特許異議申立制度では一事不再理効が働ないため、同一証拠および同一理由で特許無効審判を請求することも可能であり、一見すると問題ないようにもみえる…。

が、同一の特許権に対する特許異議の申立てと特許無効審判とは、基本的に同じ部門で審理される。

そして、特許異議申立てを審理した審判官がその部門にまだいれば、審理の迅速化という名目の基に、基本的にその審判官が特許無効審判を担当することになため、先の決定と異なる審決がでる可能性はかなり低い…。

また、仮に合議体のメンバーが異なるとしても、同一部門の合議体が先の決定と異なる審決を出すのは…。

となると、特許異議の申立てでこけた証拠および理由をそのまま使い回して、特許無効審判でつぶすのは、実質的にはかなり難しいということに…。

 

ということで、新規性欠如および進歩性欠如等でも取消される可能性が高いと考えられるものについては、特許異議申立制度を利用し、

ボーダー付近の取消(無効)理由であり、知財高裁まで…と考えざる得ない場合には、特許異議申立制度は使わない方がいいのではないかなと、個人的には思うのでした。