CRISPR-CAS9システムのUCB基本特許の概説その1(日本)
光陰矢のごとし。あっという間に師走が近づいてきました。
さて、忘れた頃に前回の続き。
UCBの特許の説明に入る前に、まずは、CRISPR-CAS9システムの概要。
(下図はUCBの出願の図1を抜粋)
細菌内で見出されたCRISPR-CAS9システム(天然型)は、図Aに示すように、ターゲットにハイブリダイズするRNA(crRNA)と、crRNAの一部にハイブリダイズするRNA(tracrRNA)と、これらのRNAの複合体と結合し、かつターゲット配列を切断するCas9タンパク質との3つの成分から構成されています。
ただし、2つのRNAを用いる場合、発現量の調整等が面倒なことになこともあり、図Bに示すように、crRNAとtracrRNAとをリンカーで結合し、1つのRNA(sgRNA)に変更したCRISPR-CAS9システムが発明されました(人工型)。
CRISPR-Cas9システムの基本特許に関して、Vilinusを除けば、天然型と人工型との両者について、各者とも出願しています。
今回成立したUCBのJP特許は、2つのうち人工型を網羅的にカバーする特許となります。
具体的には、UCBのJP特許の請求項1は下記の通りです。
【請求項1】
標的DNAを修飾する方法であって、
該標的DNAを複合体と接触させることを含み、
該複合体は、
(a)Cas9ポリペプチド並びに
(b)単一分子DNA標的化RNAであって、
(i)該標的DNA内の配列に対して相補的なヌクレオチド配列を含むDNA標的化セグメント;および
(ii)前記Cas9ポリペプチドと相互作用するタンパク質結合セグメントであって、該タンパク質結合セグメントは、ハイブリダイズして二本鎖RNA(dsRNA)を形成する、2つの相補的な一続きのヌクレオチドを含み、
前記dsRNAは、tracrRNAおよびCRISPR RNA(crRNA)の相補的なヌクレオチドを含み、前記2つの相補的な一続きのヌクレオチドは、介在ヌクレオチドによって共有結合的に連結されている、該タンパク質結合セグメントを含み、
前記DNA標的化セグメント、前記crRNAのヌクレオチド、前記介在ヌクレオチド、前記tracrRNAのヌクレオチドは、この順に5’側から3’側に配置されている、単一分子DNA標的化RNA を含む複合体であり、
該接触は、インビボのヒト細胞ではなく、ヒト生殖細胞ではなく、およびヒト胚細胞ではない細胞内で行われ、
該修飾は標的DNAの切断である、
前記標的DNAを修飾する方法。
請求項1は方法のクレームです。構成要件に分説すると…と弁理士であればやりたくなりますが、簡単に説明するために割愛。
方法としては単純であり「インビボのヒト細胞またはヒト生殖細胞およびヒト胚細胞以外の細胞において、標的DNAを複合体と接触させ、標的DNAを切断する」工程を含む方法となります。
この工程を含めばよいため、本発明の目的に反しない範囲で、他の工程を含んでもOKです。
標的DNAの切断が、二本鎖の切断のみを意味するのか、二本鎖を構成する一本の鎖の切断も含むのかにより権利範囲が大きく変わってきますが、明細書の記載の基づけば、両者を含むと解釈されます。
つぎに、標的DNAと接触される複合体のコンポーネントは、(a)Cas9タンパク質と、(b)一本鎖RNA(sgRNA)とから構成されます。
また、(b)一本鎖RNAは、5’末端から3’末端にかけて、標的DNAとハイブリダイズする配列((i)DNA標的化セグメント))、crRNA、リンカー(介在ヌクレオチド)、およびtracrRNAをこの順序で有するRNAとなります。
sgRNAの構成に関しては、クレームされている構成以外のsgRNAは(私の知る範囲は)知られていません。
このため、複合体は、Cas9タンパク質と、広く使用されているsgRNAとを含む複合体であればOKとなります。
以上のことから、sgRNAを用いる形態については、標的DNAの切断が生じる際にこのような複合体以外の物での対応が難しく、本件方法を回避することは難しいと考えられます。
なお、接触環境を一部の細胞等に限定しているのは、日本では治療方法が認められておらず、また、胚細胞等を対象とすると非特許事由に該当するため追加されています。
また、このプラクティスによる穴について、UCBのJP特許では、物クレームを用いて穴埋めをしています。
この点は後日。