論文の残滓

特許実務に関するあれこれ。

特許異議申立制度の簡易統計(その2)

 前回に引き続き、特許異議申立制度の簡易統計。

 

今回は、1件あたりの申立回数について。

 

f:id:nannosono:20160807230904j:plain

 

100件の平均値は1.14回であり、基本的には、1件の特許権に対し、申立回数は1回。

複数回行われているものは、審査段階で刊行物等提出書を複数回提出されているケースが多く、おそらくは事業が特許権に抵触している、または抵触している可能性が高い会社さんが、やばいから潰しに行っているのでしょう。

特許庁の元審判官の方に聞いた話では、複数回の特許異議の申立てがある場合、重要案件との認識となるそうです。

このため、審理を慎重に進めてもらうという意味では、重要案件では、複数回の申立てを行うのも一つの方法としては考慮できるのかもしれません。

 

ちなみに5回も特許異議の申立てが行われたケースは、医薬品に関する特許権

1つの特許権の収益が少なくとも数億/年の事業分野なので、さもありなんという感じでしょう。

 

次回は、異議申立人の種別についてです。

特許異議申立制度の簡易統計(その1)

多忙で放置していたら、あっという間に2ヶ月経過…。

特許業界的には、サントリーアサヒビールに実質完全敗訴したり、Ariosaの上告申立が却下されて、アメリカのバイオ特許業界が不毛地帯になりそうならないけどなど、なかなかネタの多い二ヶ月でした。

 

本日からしばらく引っ張るネタは、事務所のセミナーに併せて、新設された特許異議申立制度の簡易統計をとったたので、そのデータと簡単な考察。

統計の対象としたのは、審判番号2015-700001~700100の100件。

特許異議申立制度の開始後の100件です。

なお、データを取得したのは7月中頃のため、現状は変わっている可能性があります。

 

100件について、どのような状況にあるのかを、決定または未決定を分類し、さらに、決定の場合、維持決定または取消決定なのかとの観点で分析したグラフが下記の通り。

 

f:id:nannosono:20160802210604j:plain

 

特許異議の申立てのうち、約4割近くは現在審理中。

また、全件審理が終わっていないとはいえ、現状、審理が終了した案件のうち取消決定はたった2件…。

他方、維持決定は全体の約6割ということで、現状は圧倒的に権利者側に有利な模様。

制度設計上、権利者側は訂正の機会が2回もあるため、申立人と比較して、権利者側が有利なことは予想されうることですが、思った以上に有利…。

特に取消理由通知なしで、全体の1/3が維持決定されていると考えると、特許を完全につぶす方法として特許異議申立てを利用を考慮する際には、証拠の収集および異議理由について、かなりしっかりとした戦略を立てる必要がありそうです。

ただし、往々にして完全につぶす必要が無いのは言うまでも無い。

 

さらに、今後、取消決定が増えうるのかについて検討するため、審理中の案件において、取消理由通知の有無を確認すると、大半は取消理由通知が通知済み。

また、取消理由通知が通知されている案件のうち、15件は2度目の取消理由通知(決定の予告)が通知済み。

このため、取消決定が占める割合もそこそこは増えそうな感じです。

 

単純な比較はできませんが、従前の特許異議申立制度における取消決定の割合はおおよそ1/3なので、審理中の案件の多くにおいて取消決定となれば、従前の特許異議申立制度における取消決定の割合と同程度となりそうです。

 

以下、申立人側として利用する際のあれこれ。

特許異議申立制度では、特許権者側は、取消決定が出ても知財高裁への出訴可。

他方、申立人側は、維持決定が出ても知財高裁への出訴不可。

このため、例えば、進歩性欠如のボーダー付近で取消を争う等の微妙な案件の場合は、特許異議申立制度を利用すべきかがかなり微妙なところ。

というのも、取消決定を出した場合、権利者側に文句を言われるが知財高裁へGo!)、維持決定を出しても、申立人には文句を言われない(無効審判をご利用ください!)

そして、知財高裁で決定が取り消され、特許庁に返ってくると、合議体には、部門内ミーティングでなぜ決定が取消されたのかについて詳細な報告を行う報告会という名のお仕置きが待っている…。

そうすると、人間心理的には、微妙なラインの場合は、無難な方に落ち着く可能性が高い…つまり、維持決定へ。

審判官も人間!

 

また、特許異議申立制度では一事不再理効が働ないため、同一証拠および同一理由で特許無効審判を請求することも可能であり、一見すると問題ないようにもみえる…。

が、同一の特許権に対する特許異議の申立てと特許無効審判とは、基本的に同じ部門で審理される。

そして、特許異議申立てを審理した審判官がその部門にまだいれば、審理の迅速化という名目の基に、基本的にその審判官が特許無効審判を担当することになため、先の決定と異なる審決がでる可能性はかなり低い…。

また、仮に合議体のメンバーが異なるとしても、同一部門の合議体が先の決定と異なる審決を出すのは…。

となると、特許異議の申立てでこけた証拠および理由をそのまま使い回して、特許無効審判でつぶすのは、実質的にはかなり難しいということに…。

 

ということで、新規性欠如および進歩性欠如等でも取消される可能性が高いと考えられるものについては、特許異議申立制度を利用し、

ボーダー付近の取消(無効)理由であり、知財高裁まで…と考えざる得ない場合には、特許異議申立制度は使わない方がいいのではないかなと、個人的には思うのでした。

仁義なき特許戦争 CRISPR-CAS9編@雑談

バイオ系の大元を押さえる特許は、それを用いたリサーチツールや医薬品等の幅広い製品をカーバする特許となるということで、すごいお金になる特許でもある。

PCR、遺伝子組み換え技術、siRNA等の特許をみても、その特許を件をライセンスしている某社のライセンス収入はかなりの額…。

このため、バイオ系ではブレークスルーがあった際に、いかに早く、広く、ビジネス展開を見据え、且つつぶされないように特許のポートフォリオを組むかは非常に重要となってくるのである。

ここがうまくできないと金にならない。

このようなブレークスルーの多くは大学の研究により起こることが多い。

が、日本の大学の知財部はお世辞にも優秀とはいえないため、これはすごいというような発明があってもそれをうまくビジネスに使えるように特許化できているケースはレアケース…。

iPS細胞関連は頑張ってほしいものである。

 

さて、そんなブレークスルー関係の特許で目下いろんな人の耳目を集めているのが、ゲノム編集のツールであるCRISPR-CAS9関連特許である。

ノーベル賞級の発見ということで、CRISPR-CAS9に関する特許も米国を始め、日本、欧州の大学、企業等から出願されている。

日本政府も尻馬に乗って参入する気満々であるが、ライセンス料を搾り取られるだけにならないことを願う。

先日お客さんから、どこが大元握りそうですかとの質問があったのにあわせて、ばらばらに持っていた情報を少し整理してみた。

 

特許制度では、同じ発明について複数人が出願した場合、一番最初に出願した人が基本的に特許をもらえる(少し前までの米国を除く)。

このため、大元の特許を握るには一番最初に出願する必要があるということで、初期の出願人を検討してみた。

大元の特許となりうる初期の出願の出願人は、今のところ3機関であり、リトアニアのVILNIUS大学、米国のカリフォルニア大学等、米国のブロード研究所等であった。

(ちなみに、VILNIUS大学は今回初めて知ったので、まだまだサブマリンしていて浮上してくる出願はあるかもしれない。)

各出願人の出願は、以下の通り。

ファミリーも見られるようにEspacenetのアドレス付き!

 

VILNIUS大学の出願

US2015045546 (A1)のファミリー出願

出願日:2013/03/20

優先日:2012/03/20

対応JP出願:特願2015-501880(審査請求済、OA未送達、情報提供有)

http://worldwide.espacenet.com/publicationDetails/biblio?CC=US&NR=2015045546A1&KC=A1&FT=D

 

カリフォルニア大学ら(+ヴィエナ大学)の出願

US2014068797 (A1)のファミリー出願

出願日:2013/03/15

優先日:2012/05/25

対応JP出願:特願2015-514015(審査請求済、OA未送達、情報提供有)

http://worldwide.espacenet.com/publicationDetails/biblio?CC=US&NR=2014068797A1&KC=A1&FT=D

 

ブロード研究所ら(+MIT、ハーバード大学)の出願

(1)US8697359 (B1)のファミリー出願

出願日:2013/12/12

優先日:2012/12/12

対応JP出願:特願2015-547555(未審査請求)

http://worldwide.espacenet.com/publicationDetails/biblio?CC=US&NR=8697359B1&KC=B1&FT=D

 

(2)US8795965 (B2) のファミリー出願

出願日:2013/12/12

優先日:2012/12/12

対応JP出願:特願2015-547530(未審査請求)

http://worldwide.espacenet.com/publicationDetails/biblio?CC=US&NR=8795965B2&KC=B2&FT=D

 

(3)US8865406 (B2)のファミリー出願

出願日:2013/12/12

優先日:2012/12/12

対応JP出願:特願2015-547545(未審査請求)

http://worldwide.espacenet.com/publicationDetails/biblio?CC=US&NR=8865406B2&KC=B2&FT=D

 

(4)US8889356 (B2)のファミリー出願

出願日:2013/12/12

優先日:2012/12/12

対応JP出願:無

http://worldwide.espacenet.com/publicationDetails/biblio?CC=US&NR=8889356B2&KC=B2&FT=D

 

(5)US8906616 (B2) のファミリー出願

出願日:2013/12/12

優先日:2012/12/12

対応JP出願:特願2015-547573(未審査請求)

http://worldwide.espacenet.com/publicationDetails/biblio?CC=US&NR=8906616B2&KC=B2&FT=D

 

(6)US8993233 (B2) のファミリー出願

出願日:2013/12/12

優先日:2012/12/12

対応JP出願:無

http://worldwide.espacenet.com/publicationDetails/biblio?CC=US&NR=8993233B2&KC=B2&FT=D

 

優先日の順序のみに基づくと、VILNIUS大学が広くとれそうであるが、出願内容を見る限り、CRISPR-CAS9で遺伝子編集する技術全体をとるのは難しそうである。

ということで、VILNIUS大学がある程度の大きさの特許を押さえ、カリフォルニア大学が残りの隙間を埋め、さらに、細かい部分をブロード研究所の特許が押さえるのではなかろうかと予想している。

ま、代理人の手腕次第な部分もあるので、どう落ち着くかは現状不明であるが。

 

また、米国では、カリフォルニア大学とブロード研究所との間で争いが勃発し、ブロード研究所の多数の特許に対し、カリフォルニア大学がインターフェアレンス(発明日の先後を争う制度)を宣言し、現在USPTOで審査中。

この争いの行方はいかに!?ということころであるが、VILNIUS大学が参入したので、さらに争いが拡大しそうな雰囲気である。

 

こんな面白い仕事の対応日本出願を担当しているのは以下の事務所ということで、今後どのような戦略を組んでくるのか、特に後願を担当する代理人の戦略が非常に楽しみである。(他人事)

志賀国際はコンフリクトしてたんじゃ…?!

 

VILNIUS大学:志賀国際特許事務所→特許業務法人谷・阿部特許事務所

カリフォルニア大学:アンダーソン・毛利・友常法律事務所

ブロード研究所:志賀国際特許事務所

訂正時の発明のカテゴリー変更 その2@国内審判

前回の記事の続き。

 

訂正時の発明のカテゴリー変更@国内審判 - 論文の残滓

 

特許を訂正する場合、訂正の目的は一定の目的に限定されています(特126条1項但書各号)。

昨年の最高裁判決(最高裁第二小法廷判決平成27年 6月5日(平成24年(受)第1204号))では、PBPクレームの明確性について下記のように判示しており、不可能・非実際的要件を満たさない場合、PBPクレームは不明確と判断されます。

 

「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合する といえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」

 

このため、原則的に、PBPクレームは不明瞭な記載を有することとなり、PBPクレームから製造方法クレームへの訂正は、特126条1項但書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的することとなります。

 

また、PBPクレームはその物の製造方法で物を特定しているため、その製造方法自体は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項であり(記載されていないのであれば、そもそも記載要件の問題がある)、同条5項に規定されている要件を満たすこととなります。

 

そうすると、PBPクレームから製造方法クレームへの発明のカテゴリー変更を伴った訂正を行うに当たって、一番の問題となるのは、

「特許の請求の範囲の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない(同条第6項)」

との要件を満たすかということなります。

 

審決(訂正2016-390005)では、この点について、

(1)訂正により発明の技術的意義が実質的に拡張又は変更されたか否か

(2)訂正による第三者の不測の不利益の有無

の2つの観点から判断しています。

 

具体的に、審決では、前記(1)について、

『 特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものである。

 また、特許法第36条第4項第1号の規定により委任された特許法施行規則の第24条の2には、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されているから、訂正前請求項1発明と訂正後請求項1発明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が、実質的に変更されたものか否かにより、訂正後請求項1発明の技術的意義が、訂正前請求項1発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更されたものであるか否かについて検討する。』

と発明の課題および解決手段の実質的な変更が生じたかを、(1)の指標にするとの前置きをした上で、訂正前のPBPクレーム及び訂正後の製造方法クレームの課題並びに解決手段に実質的な変更がないことに基づき、技術的意義に変更はないと判断しています。

 

また、審決では、(2)ついて、

『 特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されたもの(特許法第36条第5項)である。

 また、特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。

 以上を踏まえ、訂正前請求項1発明と訂正後請求項1発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後請求項1発明の「実施」に該当する行為が、訂正前請求項1発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。』

とカテゴリーの変更に伴う発明の実施の範囲の変更により、従来含まれていなかった発明の実施を含むか否かを、(2)の指標にするとの前置きをした上で、訂正後の製造方法クレームの実施行為は、全て訂正前のPBPクレームの実施行為に含まれるため、発明の実施について、拡張又は変更するものではないと判断しています。

 

以下、簡単なコメント。

PBPクレームから製造方法クレームへの変更は、審判便覧38−03の実質的な拡張等の例示には引っかからず、また、権利範囲の拡張等を伴わないため、特許庁がどのように判断するかは注目していました。

今回特許庁が示した拡張又は変更の判断の基準の内、前記(1)は、発明の同一性を評価基準とし、その中でも作用効果の同一性を基準とする判例(昭53(行ケ)131号、平18(行ケ)10125号)と類似した判断となります。

他方、前記(2)は、特許庁が新たに示した判断基準であり、今後、裁判等で争われた際に裁判所がどのような判断するかは気になるところです。

訂正時の発明のカテゴリー変更@国内審判

昨年の最高裁判決により、プロダクトバイプロセスクレーム(PBPクレーム)の明確性について、より厳格に判断するようになりました。

また、最高裁判決に基づけば、すでに成立している多数のPBPクレームを含む特許についても、潜在的に明確性の無効理由を有することとなります。

 

その後の実務で一つ論点になっていたのが、PBPクレームを製造方法クレームに訂正できるかです。

というのも、訂正する場合、一定の訂正要件を満たす必要があり、訂正において発明のカテゴリー変更は原則として認められてきていませんでした。

ただし、PBPクレームの場合、訂正後の製造方法クレームの構成が全てクレームに記載されており、且つ事後的な判決によりプラクティスが変更されたため、カテゴリー訂正を認めてもいいのではないかと言う話がありました。

 

この点に関し、キャノンが行っていた訂正審判(訂正2016-390005)において、PBPクレームから製造方法クレームへの訂正を認めるとの審決がでました。

裁判所の判断ではなく、特許庁の判断であるため、確定的な判断ではないですが、実務上の参考にはなるかと思います。

内容については追って…。

 

www.jpo.go.jp

 

実務的な観点から言えば、そもそもPBPクレーム書いてるのに、製造方法クレームを書いてないってどういうことやねん!という感じではあるのですが…。

韓国特許法改正(2016年2月)@備忘録

ありがたいことですが、年度末で忙殺。

To doリストを更新しないと大変なことになりそうな状況なので、とりあえず更新したところ、来週だけでも出願期限のものが結構あるようで…。

皆さん、ぎりぎりにならないと反応してくれないのでつらいものです。

 

さて、韓国特許法が2月に改正されました。

3月にも改正されたようですが、これはまた別途。

2月改正の主だった内容は、以下の3つで、施行日は約1年後の2017年3月1日です。

 

1.審査請求期限

出願から5年間を3年間に変更

対象の出願は、2017年3月1日以降の出願

 

2.異議申立制度の導入

異議申立期間は、特許公報発行から6ヶ月以内

出願経過で引用されていない公報等に基づく異議申立に限る

(おそらく新規性、進歩性のみ)

異議申立人の参加は不可。

対象の特許は、2017年3月1日以降に登録された特許

(公報発行日でないかは要確認)

 

3.職権再審査の導入

自明な拒絶理由がある場合、特許許可後に審査官の職権により、特許許可を取消し、再審査が可能

ただし、特許料の納付より前に限る

対象の出願は、2017年3月1日以降に特許許可が通知された出願

 

職権再審査はめんどくさそうですね。

普通はまず見つかることはないでしょうが、特許許可が通知されたら、早めに特許料を納付するようにした方がよさそうです。

中東への出願@備忘録

原油の価格が下落し、オイルマネーのパワーは一時期ほどではなくなっています。

ただ、中東はマーケットも大きくなりつつあり、製薬メーカー以外もぽつぽつ出願が増えつつあります。

 

中東に出願する際に困るのは、言語の壁…。アラビア語をそのまま読める日本人は少ないし、英語の情報も意外と少ないもの。

そして、未だにPCTに加盟していない国があったり、さらには、パリ条約に加盟していない国もあります…。

日本の大企業だと日本に基礎出願して、1年後にPCT出願して、更に1年後に移行準備という流れが一般的ですが、そんなことしてたら優先日がえらく後連れすることもあります。

下手をすると気付くのPCTの移行時期であり、既に手の打ちようがなかったと言うことが有ったとか無かったとか…。

アフリカも同じようなことを聞くのでご注意ください。

 

マーケットを想定し、出願時に早め早めに現地代理人に確認することでカバーしていましたが、まとめておいた方が事務所的によろしいので集められる資料から書き起こしてみました。

 

中東各国への出願方法としては、

1.直接出願

2.パリルート

3.PCTルート

の3ルートがあり、また、一部の国については、湾岸協力会議特許庁(GCC)を利用することで広域特許の形でカバーできます。

GCCが便利なのは、未だに実体審査をしてくれないクウェート等でも権利がとれることと、メジャーなマーケットはカバーできること。

ただし、GCCは、PCTルートを使えないので要注意です。

GCCの参加国等は以下の通り。

 

広域 参加国 PCTルート パリルート 言語 従属形式 治療・診断方法 品種(動植物) 遺伝子・タンパク質 備考
湾岸協力会議特許庁
(GCC)
UAEオマーンカタール
クウェートサウジアラビアバーレーン
× ×(未加盟)
ただし、優先権主張は可
アラビア語 マルチ:○
マルチマルチ:○
×(方法に用いる製品除く) ×(微生物学的方法およびそれにより得られた物を除く) 各国出願との併存不可
-:不明                  
領事認証要の国が多いため、現地代理人に事前に確認要。              

 

その他各国は以下の通り。

パレスチナは出願自体はできるようです。審査されているのかは不明ですが…。

 

国名 GCC参加 PCTルート パリルート 言語 従属形式 治療・診断方法 品種(動植物) 遺伝子・タンパク質 備考
アラブ首長国連(UAE) ○(30ヶ月) ○(直接 or GCC経由) アラビア語
英語(PCTのみ)
× ×(微生物学的方法およびそれにより得られた物を除く) 優先権証明書の領事認証要(90日以内、時間と費用大)
イエメン × × アラビア語 × ×(微生物、非生物学的方法および微生物学的方法を除く) 遺伝子:× 食品、薬品、治療用医薬品関連の非化学的発明は不可。
イスラエル × ○(30ヶ月) 英語、ヘブライ語
アラビア語
マルチ:○
マルチマルチ:○
× × IDSの類似制度有り
(Section 18)
イラク × ×(未加盟) ×(未加盟) アラビア語 ファミリー出願の情報開示要
イラン × ○(30ヶ月) ペルシャ語 × ○(生物学的プロセスは不可) 遺伝資源:× 優先権証明書の領事認証要(90日以内、時間と費用大)
エジプト × ○(30ヶ月、
33ヶ月まで延長可
(延長費用要))
アラビア語 × ×(動植物を生産するための非生物学的方法および微生物学的方法を除く) 遺伝情報:× ファミリー出願の情報開示要
オマーン ○(30ヶ月) ○(直接 or GCC経由) アラビア語 植物:○
微生物以外の動物、動物またはその一部を生産するための、非生物学的方法および微生物学的方法を除く本質的に生物学的方法:×
自然物不可。自然物の用途可。
カタール ○(30ヶ月) ○(直接 or GCC経由) アラビア語 × ×(微生物学的方法およびそれにより得られた物を除く)  
クウェート ×(未加盟) ○(直接(14/12/02~) or GCC経由) アラビア語 × ×(微生物学的方法およびそれにより得られた物を除く) 受理のみ。
GCC経由の権利化検討。
医薬品不可。
サウジアラビア ○(30ヶ月) ○(直接 or GCC経由) アラビア語 ×(方法に用いる製品除く) ×(微生物学的方法およびそれにより得られた物除く)  
シリア × ○(31ヶ月) アラビア語 ×(方法に用いる製品除く) ×(微生物および動植物を生産するための非生物学的方法および微生物学的方法を除く) 存続期間:出願日から15年、
特許許可後2年以内の実施義務
トルコ × ○(直接:30ヶ月、
EPC経由:31ヶ月)
直接:トルコ語
EPC経由:英語等
直接:-
EPC経由:○
× ×(動植物品種又は動植物品種の増殖方法であって,主に生物学的要素に基づくもの )  
バーレーン ○(30ヶ月) ○(直接 or GCC経由) アラビア語
英語(PCTのみ)
× ×  
パレスチナ ×  
ヨルダン × × アラビア語 × ×(微生物、非生物学的方法および微生物学的方法を除く)  
レバノン × × アラビア語
英語、フランス語
×  
-:不明                  
領事認証要の国が多いため、現地代理人に事前に確認要。                  

 

中東系の国で気をつけないと行けないのは、優先権証明書等に領事認証が必要な国が多いこと。

3ヶ月以内、延長不可で提出を求められることが多いため、すぐに動けるよう準備しておくことが大切となります。

認証取得の費用も結構お高いので、慣れないと色々大変な中東出願でした。

 

なお、上記表の正確性は保証致しかねますので、出願される際は現地代理人にご確認ください。