論文の残滓

特許実務に関するあれこれ。

訂正時の発明のカテゴリー変更@国内審判

昨年の最高裁判決により、プロダクトバイプロセスクレーム(PBPクレーム)の明確性について、より厳格に判断するようになりました。

また、最高裁判決に基づけば、すでに成立している多数のPBPクレームを含む特許についても、潜在的に明確性の無効理由を有することとなります。

 

その後の実務で一つ論点になっていたのが、PBPクレームを製造方法クレームに訂正できるかです。

というのも、訂正する場合、一定の訂正要件を満たす必要があり、訂正において発明のカテゴリー変更は原則として認められてきていませんでした。

ただし、PBPクレームの場合、訂正後の製造方法クレームの構成が全てクレームに記載されており、且つ事後的な判決によりプラクティスが変更されたため、カテゴリー訂正を認めてもいいのではないかと言う話がありました。

 

この点に関し、キャノンが行っていた訂正審判(訂正2016-390005)において、PBPクレームから製造方法クレームへの訂正を認めるとの審決がでました。

裁判所の判断ではなく、特許庁の判断であるため、確定的な判断ではないですが、実務上の参考にはなるかと思います。

内容については追って…。

 

www.jpo.go.jp

 

実務的な観点から言えば、そもそもPBPクレーム書いてるのに、製造方法クレームを書いてないってどういうことやねん!という感じではあるのですが…。

韓国特許法改正(2016年2月)@備忘録

ありがたいことですが、年度末で忙殺。

To doリストを更新しないと大変なことになりそうな状況なので、とりあえず更新したところ、来週だけでも出願期限のものが結構あるようで…。

皆さん、ぎりぎりにならないと反応してくれないのでつらいものです。

 

さて、韓国特許法が2月に改正されました。

3月にも改正されたようですが、これはまた別途。

2月改正の主だった内容は、以下の3つで、施行日は約1年後の2017年3月1日です。

 

1.審査請求期限

出願から5年間を3年間に変更

対象の出願は、2017年3月1日以降の出願

 

2.異議申立制度の導入

異議申立期間は、特許公報発行から6ヶ月以内

出願経過で引用されていない公報等に基づく異議申立に限る

(おそらく新規性、進歩性のみ)

異議申立人の参加は不可。

対象の特許は、2017年3月1日以降に登録された特許

(公報発行日でないかは要確認)

 

3.職権再審査の導入

自明な拒絶理由がある場合、特許許可後に審査官の職権により、特許許可を取消し、再審査が可能

ただし、特許料の納付より前に限る

対象の出願は、2017年3月1日以降に特許許可が通知された出願

 

職権再審査はめんどくさそうですね。

普通はまず見つかることはないでしょうが、特許許可が通知されたら、早めに特許料を納付するようにした方がよさそうです。

中東への出願@備忘録

原油の価格が下落し、オイルマネーのパワーは一時期ほどではなくなっています。

ただ、中東はマーケットも大きくなりつつあり、製薬メーカー以外もぽつぽつ出願が増えつつあります。

 

中東に出願する際に困るのは、言語の壁…。アラビア語をそのまま読める日本人は少ないし、英語の情報も意外と少ないもの。

そして、未だにPCTに加盟していない国があったり、さらには、パリ条約に加盟していない国もあります…。

日本の大企業だと日本に基礎出願して、1年後にPCT出願して、更に1年後に移行準備という流れが一般的ですが、そんなことしてたら優先日がえらく後連れすることもあります。

下手をすると気付くのPCTの移行時期であり、既に手の打ちようがなかったと言うことが有ったとか無かったとか…。

アフリカも同じようなことを聞くのでご注意ください。

 

マーケットを想定し、出願時に早め早めに現地代理人に確認することでカバーしていましたが、まとめておいた方が事務所的によろしいので集められる資料から書き起こしてみました。

 

中東各国への出願方法としては、

1.直接出願

2.パリルート

3.PCTルート

の3ルートがあり、また、一部の国については、湾岸協力会議特許庁(GCC)を利用することで広域特許の形でカバーできます。

GCCが便利なのは、未だに実体審査をしてくれないクウェート等でも権利がとれることと、メジャーなマーケットはカバーできること。

ただし、GCCは、PCTルートを使えないので要注意です。

GCCの参加国等は以下の通り。

 

広域 参加国 PCTルート パリルート 言語 従属形式 治療・診断方法 品種(動植物) 遺伝子・タンパク質 備考
湾岸協力会議特許庁
(GCC)
UAEオマーンカタール
クウェートサウジアラビアバーレーン
× ×(未加盟)
ただし、優先権主張は可
アラビア語 マルチ:○
マルチマルチ:○
×(方法に用いる製品除く) ×(微生物学的方法およびそれにより得られた物を除く) 各国出願との併存不可
-:不明                  
領事認証要の国が多いため、現地代理人に事前に確認要。              

 

その他各国は以下の通り。

パレスチナは出願自体はできるようです。審査されているのかは不明ですが…。

 

国名 GCC参加 PCTルート パリルート 言語 従属形式 治療・診断方法 品種(動植物) 遺伝子・タンパク質 備考
アラブ首長国連(UAE) ○(30ヶ月) ○(直接 or GCC経由) アラビア語
英語(PCTのみ)
× ×(微生物学的方法およびそれにより得られた物を除く) 優先権証明書の領事認証要(90日以内、時間と費用大)
イエメン × × アラビア語 × ×(微生物、非生物学的方法および微生物学的方法を除く) 遺伝子:× 食品、薬品、治療用医薬品関連の非化学的発明は不可。
イスラエル × ○(30ヶ月) 英語、ヘブライ語
アラビア語
マルチ:○
マルチマルチ:○
× × IDSの類似制度有り
(Section 18)
イラク × ×(未加盟) ×(未加盟) アラビア語 ファミリー出願の情報開示要
イラン × ○(30ヶ月) ペルシャ語 × ○(生物学的プロセスは不可) 遺伝資源:× 優先権証明書の領事認証要(90日以内、時間と費用大)
エジプト × ○(30ヶ月、
33ヶ月まで延長可
(延長費用要))
アラビア語 × ×(動植物を生産するための非生物学的方法および微生物学的方法を除く) 遺伝情報:× ファミリー出願の情報開示要
オマーン ○(30ヶ月) ○(直接 or GCC経由) アラビア語 植物:○
微生物以外の動物、動物またはその一部を生産するための、非生物学的方法および微生物学的方法を除く本質的に生物学的方法:×
自然物不可。自然物の用途可。
カタール ○(30ヶ月) ○(直接 or GCC経由) アラビア語 × ×(微生物学的方法およびそれにより得られた物を除く)  
クウェート ×(未加盟) ○(直接(14/12/02~) or GCC経由) アラビア語 × ×(微生物学的方法およびそれにより得られた物を除く) 受理のみ。
GCC経由の権利化検討。
医薬品不可。
サウジアラビア ○(30ヶ月) ○(直接 or GCC経由) アラビア語 ×(方法に用いる製品除く) ×(微生物学的方法およびそれにより得られた物除く)  
シリア × ○(31ヶ月) アラビア語 ×(方法に用いる製品除く) ×(微生物および動植物を生産するための非生物学的方法および微生物学的方法を除く) 存続期間:出願日から15年、
特許許可後2年以内の実施義務
トルコ × ○(直接:30ヶ月、
EPC経由:31ヶ月)
直接:トルコ語
EPC経由:英語等
直接:-
EPC経由:○
× ×(動植物品種又は動植物品種の増殖方法であって,主に生物学的要素に基づくもの )  
バーレーン ○(30ヶ月) ○(直接 or GCC経由) アラビア語
英語(PCTのみ)
× ×  
パレスチナ ×  
ヨルダン × × アラビア語 × ×(微生物、非生物学的方法および微生物学的方法を除く)  
レバノン × × アラビア語
英語、フランス語
×  
-:不明                  
領事認証要の国が多いため、現地代理人に事前に確認要。                  

 

中東系の国で気をつけないと行けないのは、優先権証明書等に領事認証が必要な国が多いこと。

3ヶ月以内、延長不可で提出を求められることが多いため、すぐに動けるよう準備しておくことが大切となります。

認証取得の費用も結構お高いので、慣れないと色々大変な中東出願でした。

 

なお、上記表の正確性は保証致しかねますので、出願される際は現地代理人にご確認ください。

手続のオンライン化@PCT

PCT出願関連の手続で面倒なのは、出願手続はオンラインでできるのに、それ以降の手続の多くがオンライン不可なこと。

 

企業さんの出願の場合、予備審査請求をすることは基本的にありませんが、大学さんの場合、JSTの支援制度を利用することが多く、国際段階で特許性有りの見解を得ておく必要があります。権利行使時を考えれば予備審査請求はしたくない…!

予備審査請求の書類は、書面を郵送、且つ手数料は特許印紙で納付(電子現金納付可)のため、予備審査請求のときだけ、中央郵便局に特許印紙を買いに走る必要が…。

 

そんな煩わしい作業も4月1日からはおさらばできるようです。

www.jpo.go.jp

 

4月1日から、現行は書面の郵送要、特許印紙等による納付要の手続の一部に関し、オンライン提出や予納からの引き落としが可能となります。

(ただし、英語の場合は、従前通り書面を郵送要)

 

オンライン手続および予納からの引き落としが可能となるのは以下の通り(特許庁HPから抜粋)。

  • 1) 書誌事項の変更手続
    氏名(名称)変更届
    あて名変更届
    国籍変更届
    住所変更届
    名義変更届(添付書類がある場合を除く。)
  • 2) 料金納付手続
    手数料納付書(国際出願に関する手数料の納付)
    手数料納付書(国際予備審査に関する手数料の納付)
    手数料補正書
    手続補正書(国際予備審査請求書に係る補正)
    手数料追加納付書(国際調査に係る追加納付)
    手数料追加納付書(国際予備審査に係る追加納付)
    請求の範囲の減縮及び手数料追加納付書
  • 3) その他
    国際予備審査請求書
    答弁書
    陳述書
    請求の範囲の減縮書

 

上記一覧の内、手続補正書(国際予備審査請求に係る補正)は、3)その他に分類される気もしますが…。

手数料納付関係で、引き続き予納不可なものは、請求関係ぐらいになりそうです。

 

これらの書面の具体例は、3月上旬に公開されるようなので、今しばらく待つことになりそうです。

国内の手続と似たような様式となると楽ですが、おそらく違うんでしょう。

拒絶理由通知時の応答期間の延長(その2)@国内

4月1日から出願手数料、審査請求料、特許料等の手数料が改定されます。

 

www.jpo.go.jp

 

いずれも現在の手数料より若干お安くなりリーズナブル(?)になるようです。

大手企業にとっては、結構な額の手数料が浮くのではないでしょうか。

その分を使って、より有効な出願をしてもらいたいものです。

 

先日記載したように、拒絶理由通知に対する応答期間の延長に関し、国内居住者、在外者共に理由不要で延長請求が2回、合計3ヶ月(1回目:2ヶ月、2回目:1ヶ月)の延長が可能となります。

また、応答期間を経過後も応答期間の延長が可能となります。

 

拒絶理由通知時の応答期間の延長@国内 - 論文の残滓

 

前者の手数料は2100円から変更されないであろうと、想定していました。

が、後者の手数料は、基準となるものもないため、どの程度費用になるか気になっていたところ、経済産業書のHPの方で公開されていました。

 

www.meti.go.jp

 

 

後者は

【特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令】政令・理由(PDF形式:90KB)

の第二条の「特許法第五条第三項の規定による期間の延長(同法第五十条の規定により指定された期間に係るものに限る。)を請求する者」に対応するため、5万1千円となるようで。

とりあえず応答して、拒絶査定が来て審判請求をするという対応よりは若干安いお値段という感じでしょうか。

なお、法定の上限は、6万8千円(特許法第百九十五条別表)であるため、今後変動する可能性はあります。

 

あっ、前者については、料金に変動はないようです。

在外者の場合、3ヶ月延長した場合の費用が若干お安くなりますね。

 

制度の運用が緩やかになり、何かあったときにお金で解決できるようになるのは、代理人にとってもありがたいことですが、期限徒過はしたくないものです…。

特許審査基準(用途発明)の改訂(その2)@国内

先日、ブログで記載した食品用途発明の審査基準にする運用変更に関連し、

特許審査基準(用途発明)の改訂@国内 - 論文の残滓

食品用途を認める審査基準の運用を開始する旨の正式なアナウンスが特許庁からありました。

 

www.jpo.go.jp

 

新たな審査基準の運用開始は、4月中をめどということですので、遅くとも5月には審査基準が変更されそうです。

また、現状審査中の案件に関して分割しておくのも一つの手と考えていましたが、OAが発行されているケースに関しては、応答せず拒絶査定が送達されるものを除き、審査が一度止まるようです。

審査係属中でOA対応中のケースについては、とりあえず応答しておくのがベターで、意見書において、新たな審査基準を踏まえて反論しておくのよりベターというところでしょうか。

運用変更後、食品用途を考慮し、再度OAをうってくれる可能性もあるため、食品用途を考慮し、意見書を出しておくかは悩ましいところですが…。

PPH制度@中国

中国において、ベンチャー系の出願の権利化を行う際に困るのは、まともに使用できる日本のような早期審査制度がないこと。

中国にも優先審査制度は存在しますが、対象がグリーン関連等かなり限定されているため、対象となる出願はかなり少ないのが現状です。

出願数が激増しており、審査官も不足気味なので仕方がないのかもしれません。

 

さて、そんな中国において唯一まともに使える早期審査制度がPPH制度。

PPH制度を使えば、早ければ2−3週間で、遅くとも6ヶ月程度でFAを受け取れます(平均は2−3ヶ月)。

 

中国代理人に聞いたところ、PPH制度は、申請時にはじかれることが多い模様。

中国では、他国に比べて特許許可を受けてる対応各国のクレームの文言と、完全一致に近い対応関係を求められ、この点ではじかれる申請が多いのではないかとのことです。

また、1回申請すると、却下されても再度の申請は認められていないとのこと。

ワンチャンスなので、申請時に慎重な検討が必要になりそうです。

なお、PPH制度の申請に対する許可率は、5割程度のようです。

 

PPH制度を利用した場合、特許許可率はおおよそ88%(2015年1-6月集計)。

全出願の特許許可率が55.2%(2014年集計)であることを考えるとかなり高い割合です。

 

早期権利化が必要なケースでは、是非検討してみてください。