免疫チェックポイント阻害薬の特許の状況
CRISPR-CAS9の話を書いていましたが、たまには別のネタ。
小野薬品工業のオプジーボの上市後、PD-1 - PD-L1の相互作用をターゲットとする新薬が次々と開発及び上市されています。
上市済みのものは以下のとおり。
・抗PD-1抗体
キイトルーダ(MSD)
・抗PD-L1抗体
テセントリク(Roche、中外、Genentech)
バベンチオ(メルクセローノ、ファイザー)
イミフィンジ(アストラゼネカ)
さて、PD-1 - PD-L1の相互作用を阻害することでがんを治療できるという概念は、京大の本庶先生らが見出した発明です。
そして、これに関する特許出願(PCT/JP2003/008420、特願2004-519238、以下、ファミリー出願をまとめて本庶特許という)は、本庶先生と小野薬との共願で出願されています。
なお、本庶先生の持ち分は職務発明として京大に承継の打診があったのですが、先見の明がない京大が断ったのは有名な話…
MSDのキイトルーダについては、本庶特許との関係で小野薬ともめ、各国で無効性、侵害の有無等を争った後に和解に至っています。
https://www.ono.co.jp/jpnw/PDF/n17_0121.pdf
他方、抗PD-L1抗体については、そのような話は現状プレスリリースされていません。
あれっ、小野薬って抗PD-L1抗体を有効成分として含むがん治療薬の特許を取り損ねていたっけ…?ということで、日本について本庶特許をあさってみました。
日本において、本庶特許は既に6回の分割を重ねて、第6世代までいっております…。各世代の願番、特許番号及びメインクレームは以下のとおり。
・親出願(特願2004-519238、特許第4409430号)
PD-1抗体を有効成分として含み、インビボにおいてメラノーマの増殖または転移を抑制する作用を有するメラノーマ治療剤。
・第1世代(特願2009-203514、特許第5159730号、子出願)
PD-1抗体を有効成分として含み、インビボにおいて癌細胞の増殖を抑制する作用を有する癌治療剤(但し、メラノーマ治療剤を除く。)。
・第2世代(特願 2012-197861、特許第5701266号、孫出願)
抗PD-1抗体を有効成分として含む、ウイルス性肝炎治療剤。
・第3世代(特願2014-007941、特許第5885764号、ひ孫出願)
PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD-L1抗体を有効成分として含む癌治療剤。
・第4世代(特願2015-095990、特許第6035372号、玄孫出願)
PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する、キメラ、ヒト化または完全ヒト型抗PD-1抗体を有効成分として含む肺癌治療剤。
・第5世代(特願 2016-184782、特許第6258428号、来孫出願)
PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD-L1抗体を有効成分として含む、癌治療用の静脈投与用注射剤。
・第6世代(特願2017-219349、昆孫出願)
遺伝子改変によりPD-1発現が阻害されたリンパ球細胞を有効成分として含む癌治療剤。
抗PD-1抗体を有効成分として含むがん治療薬は、親、第1および第4世代の特許によりカバーされていそうです。
他方、抗PD-L1抗体を有効成分として含むがん治療薬をカバーする特許としては、第3および第5世代の特許が該当しそうです。
さて、第3および第5世代の特許で抗PD-L1抗体を有効成分とする各社のがん治療薬はカバーされているのでしょうか。
一例として、中外製薬のテセントリクのHPを見ると、作用機序として以下のような記載があります。
テセントリクは、プライミングフェイズでは、B7-1とCD28との相互作用を促進することにより、エフェクターフェイズでは、PD-L1 - PD-1経路、PD-L1 - B7-1経路を阻害することにより、抗がん作用を示すようです。
このため、HP上の記載に基づけば、第3および第5世代のクレームに記載されているように、抗PD-L1抗体が「PD-1の免疫抑制シグナルを抑制する」かは不明です。
現状、本件特許について、各社がライセンスを受けたとのプレスがないのは、抗PD-L1抗体の機能に関する文言の充足性が争いとなっていることによる可能性がありそうです。
各社の上市後だいぶ時間がたってきているので、そろそろ、ライセンスなり、訴訟なりで表に出てくる頃でしょうか。
中外は侵害訴訟で最近連戦連勝なので、突っぱねそうな気もします。